東京地方裁判所 昭和59年(ワ)5442号 判決 1987年5月29日
原告 日本プレシャス株式会社
右代表者代表取締役 西塚幸雄
右訴訟代理人弁護士 前田政治
被告 商工組合中央金庫
右代表者理事長 佐々木敏
右訴訟代理人弁護士 松尾翼
同 小杉丈夫
同 三好啓信
同 簑原建次
同 長浜隆
同 辰野守彦
同 瀬野克久
主文
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1. 被告は原告に対し、金一四〇〇万七六五〇円及びこれに対する昭和五九年五月二六日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2. 訴訟費用は被告の負担とする。
3. 仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1. 原告は、べっ甲細工等の材料及び製品の輸出入、国内販売等を目的とする株式会社であり、被告は、所属団体等に対する金銭の貸付、手形割引、為替取引等の業務を営む商工組合中央金庫である。
2. 荷為替信用状開設契約(以下「本件契約」という。)の締結
(一) 原告と被告は、昭和五八年一〇月二〇日、原告を信用状発行依頼人、被告を発行銀行として、左記の内容の荷為替信用状開設契約を締結した。
(1)通知銀行 アメリカ銀行パナマ支店
(2)補償銀行 アメリカ銀行本店
(3)受益者 ビクトル・メンチョル・リベラ(以下「リベラ」という。)
(4)有効期限 昭和五八年一二月一〇日
(5)商品名 べっ甲甲羅ハラ及びツメ(正味重量一〇〇〇ポンド)
(6)金額 金六万五〇〇〇米国ドル
(二) 仮に、右(一)の(1)ないし(6)のとおりの契約が締結されなかったとしても、原告と被告は、昭和五八年一〇月二〇日ころ、原告を信用状発行依頼人、被告を発行銀行として、右(一)の(2)の補償銀行を、チエース・マンハッタン銀行本店とし、その余は(一)の契約内容と同一とする荷為替信用状開設契約を締結した。
3. 被告の責任
(一) 不完全履行責任
(1) 被告は、前記2(一)の契約に従い、補償銀行をアメリカ銀行本店とする荷為替信用状を発行する義務があるのにこれを怠り、昭和五八年一〇月二〇日、チエース・マンハッタン銀行本店を補償銀行とする荷為替信用状を発行した。
(2) 被告は、前記2(二)の契約に従い、補償銀行であるチエース・マンハッタン銀行に対し速やかに受益者リベラ振出の、チエース・マンハッタン銀行本店を支払人とする為替手形(以下「本件為替手形」という)の償還の授権(以下「本件償還授権」という)を適切に行う義務があるのにこれを怠り、右授権を行わなかったか少なくとも授権の仕方が不適切であった。
(3) 被告は、前記2(二)の契約に従い、その履行のために、チエース・マンハッタン銀行本店に十分な決済資金を用意しておくべきだったのに、これを怠った。
(二) 履行遅滞責任
荷為替信用状に基づく受益者を振出人、補償銀行を支払人とする為替手形金の支払は、通常、受益者による支払銀行に対する荷為替信用状、船積書類とともにする為替手形の買取依頼から二週間の間には行われるものであるところ、前記2(一)または(二)のいずれかの契約に基づいて発行された荷為替信用状(以下「本件信用状」という)に基づく本件為替手形金の支払については、リベラが、昭和五八年一一月七日に、本件信用状及び前記2(一)(5)記載の商品の船積書類とともに本件為替手形の買取をアメリカ銀行パナマ支店に依頼し、同銀行は、同年一一月二二日これを取立に回し、チエース・マンハッタン銀行に本件為替手形金の支払を請求したにも拘わらず、その支払は二週間内になされなかった。被告からリベラに支払がなされたのは、昭和五八年一二月一二日だった。
(三) 不法行為責任
被告は、前記(一)(1)ないし(3)記載の各行為を行ったが、右行為は不法行為に該当するものというべきである。
4. 損害の発生と因果関係
(一) 被告の3(一)、(二)の債務不履行又は3(三)の不法行為の結果、リベラは、資金不足により既に原告と売買契約を締結していた商品の仕入れができず、これを原告に納入できなかった。そのため、原告は、右商品につき訴外前田工芸株式会社との間で既に締結していた売買契約を履行できなくなり、以下の損害を受けた。
逸失利益 金二五六万円
(売却代金九〇〇万円から買受代金六一一万円及び運賃三三万円を控除した金額)
諸経費 金一七万〇一五〇円
合計 金二七三万〇一五〇円
(二) リベラの損害の発生
(1) 被告の前記3(三)のいずれかの不法行為の結果、同3(二)の支払遅延が生じた。
(2) そして、右の支払遅延の結果、リベラは、昭和五八年九月七日に左記の漁師らと売買契約を締結していたべっ甲等二〇〇〇ポンドの商品代金支払が不可能となり、そのため、以下の各漁師らに対し、以下のとおりの損害金を支払って、同額の損害を受けた。
カミロ・メドラノ べっ甲五〇〇ポンド相当額
フロレンシイオ・アルチイボルド 同五〇〇ポンド相当額
ジエロニモ・デラ・オツサ 同一〇〇ポンド相当額
フレデイ・ゴンザレス 同一〇〇ポンド相当額
オウレリオ・スミス 同一〇〇ポンド相当額
アベル・ランド 同二〇〇ポンド相当額
バルビノ・ミイシエリス 同二〇〇ポンド相当額
ジユアン・ガルシイア 同一〇〇ポンド相当額
アルバート・ゴメス 同二〇〇ポンド相当額
合計べっ甲二〇〇〇ポンド相当額金五万米国ドル
(日本円換算額 金一一二七万七五〇〇円)
(二) 被告は、前記3(一)、(二)の債務不履行又は同(三)の不法行為によって、原告及びリベラに右の各損害が発生することを、右債務不履行時ないし不法行為時において予見することができた。
5. 原告は、昭和五九年四月一〇日、右4(二)のリベラの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求債権を、取立のため同人より譲受けた(以下「本件債権譲渡」という)。
よって、原告は、被告に対し、固有の損害賠償請求権(主位的には債務不履行に基づき、予備的には不法行為に基づくもので、金額は金二七三万〇一五〇円。)及び譲受債権(リベラの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権であって、金額は一一二七万七五〇〇円。)に基づき、合計金一四〇〇万七六五〇円及びこれに対する不法行為の日以降であり、かつ訴状送達の日の翌日である昭和五九年五月二六日から支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1の事実を認める。
2. 請求原因2のうち、(一)の契約締結の事実を否認し、(二)の契約締結の事実を認める。
3. 請求原因3(一)(1)の事実のうち、被告が補償銀行をチエース・マンハッタン銀行とする本件信用状を発行したことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。
同(一)、(2)の事実は否認する。被告は、昭和五八年一〇月二五日、本件信用状を発行し、翌二六日、チエース・マンハッタン銀行本店に対し、京橋郵便局を通じて書留郵便で本件信用状の償還授権書を送付する方法により、本件信用状に基づく本件為替手形の買取銀行から、船積書類とともにその提示を受けたときには被告の勘定で償還することを授権した。
同(一)、(3)の事実は否認する。被告は、チエース・マンハッタン銀行本店に口座を有し、本件信用状を決済するに十分な金額の預金はしていたし、仮に、本件信用状を決済するには預金額が不足していたとしても、被告は、通例に従い、チエース・マンハッタン銀行とは当座貸越契約を締結してあるから、本件信用状を決済するのには何らの障害も存しなかった。
同(二)の事実は認める。
4. 請求原因4(二)、(三)の事実は否認し、同(一)の事実は知らない。
5. 請求原因5の事実は否認する。
三、抗弁(請求原因3(二)の主張に対するもの)
1. 本件信用状に基づく本件為替手形が遅滞なく決済されなかったのは、以下に述べるように、チエース・マンハッタン銀行における事務処理上の過誤があったためである。
被告が本件償還授権を行ったチエース・マンハッタン銀行本店(補償銀行)は、昭和五八年一一月二日に被告から本件信用状の償還授権書を受領したのに、同年一二月五日に至るまで同行のコンピューター・システムに入力しなかった。そのため、受益者リベラから本件為替手形の買取依頼を受けたアメリカ銀行パナマ支店からの同行ニューヨーク支店を通じての右手形の呈示があった際、訴外チエース・マンハッタン銀行は、被告からの本件償還授権がなされていないと回答して、本件為替手形金の支払を拒絶した。
2. 1の事実関係において、仮にチエース・マンハッタン銀行を被告の履行補助者と評価したとしても、以下に述べる理由から被告は免責される。
(一) 被告と原告は、本件信用状の開設契約の際、本件信用状が国際商業会議所の荷為替信用状に関する統一規則および慣例(一九七四年改訂のもの、以下たんに「統一規則」という。)に準拠する旨の合意をした。
(二) 統一規則一二条(a)は、「信用状発行依頼人の指図を実行するために、他行のサービスを利用する銀行は、その依頼人の計算と危険においてこれを行う。」と規定している。
(三) 被告は、信用状発行依頼人たる原告の指図を実行するために、チエース・マンハッタン銀行のサービスを利用したわけであり、チエース・マンハッタン銀行の事務処理上の過誤により、本件為替手形が遅滞なく決済されなかったとしても、それによる危険は原告が負うこととなり、被告は免責される。
四、抗弁に対する認否
1. 抗弁1の事実は否認する。
2. 抗弁2の事実のうち、(一)の事実は否認し、(二)の事実は認める。その主張は争う。
3. 本件信用状ないしその開設依頼書に統一規則に準拠する旨の文言の記載があったとしても、原告は、右文言を取引上の事項として認識しておらず、また、統一規則の内容を被告から示されたこともなく、その存在・内容を知らなかったのであるから、原・被告間の取引には統一規則の適用がないものと解すべきである。
第三、証拠<省略>
理由
一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二、請求原因2の事実について(当事者間の信用状開設契約の内容について)
1. 成立に争いのない甲第一号証の一、第二号証の一、証人竹廣和俊の証言、原告代表者本人尋問の結果を総合すれば、次の各事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。
(一) 原告代表者西塚幸男(以下、「原告代表者」という。)は、昭和五八年一〇月二〇日、被告の東京支店に対して、次の内容の荷為替信用状の開設を依頼した(その依頼書が甲第一号証の一である。以下たんに「依頼書」という。)。
通知銀行 アメリカ銀行パナマ支店
補償銀行 アメリカ銀行本店
受益者 リベラ
有効期限 昭和五八年一二月一〇日
商品名 べっ甲甲羅ハラ及びツメ(正味重量一〇〇〇ポンド)
金額 金六万五〇〇〇米国ドル
(二) 右支店には荷為替信用状を発行ないし開設する権限はなかったため、右支店の担当者であった竹廣和俊(以下「竹廣」という。)は、被告の本部に依頼書などの書類を送付した。被告の本部では、被告がアメリカ銀行には預金口座を持っていなかったため、東京支店に対し、補償銀行をチエース・マンハッタン銀行かアービング・トラストに変更するように指示した。竹廣は、この指示の内容をそのまま原告代表者に伝えて、回答を求めたが、原告代表者は回答を留保した。そして、被告は、まもなく、昭和五八年一〇月二〇日付で補償銀行をチエース・マンハッタン銀行とし、信用状番号をLC-5436とする本件信用状を発行し、その写し(甲第二号証の一)を被告の東京支店経由で原告に送付したが、原告からは何らの異議も出されなかった。
2. 右1の認定事実からすると、原告の信用状の開設依頼について、被告がそのまま無条件に承諾したものとは認められず、原告と被告との間において補償銀行をアメリカ銀行本店とする信用状を開設する旨の合意(請求原因2(一)記載の契約)が成立したものと認めることはできない。そして、請求原因2(二)の事実(補償銀行をチエース・マンハッタン銀行とする荷為替信用状開設契約)は、当事者間に争いがない。
三、不完全履行の責任(請求原因3(一))の有無について
1. 請求原因3(一)(1)の主張は、請求原因2(一)の契約(補償銀行をアメリカ銀行本店とするもの)締結を前提とするものであるところ、前述したところによれば、右前提事実を認めることはできないのであるから、右主張は失当である。
2.(一) 請求原因3(一)(2)の事実につき判断するに、この事実を認めるに足る充分な証拠はなく(原告代表者本人の供述中、これに副うかに見える部分があるが、それはチエース・マンハッタン銀行東京支店岡本某の推測を聞いたものにすぎず、たやすく採用できない。)、かえって、成立に争いのない乙第二、三号証、証人石田澄男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、第四号証、第八号証並びに証人石田澄男の証言によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。
被告は、昭和五八年一〇月二五日、本件信用状を発行し、翌二六日、チエース・マンハッタン銀行本店に対し、京橋郵便局を通じて書留郵便(乙第三号証は、その受領証である。)で本件信用状についての償還授権書(乙第一号証は、その写しである。)を送付する方法により、本件信用状に基づく本件為替手形の買取銀行から、船積書類とともにその提示を受けたときには被告の口座から預金を引き落して償還することを授権した。右の書留郵便の宛先としては、チエース・マンハッタン銀行名と住所の他に「Attention Reimbursment sect」と記載されていた。そして、右の償還授権書(書留郵便)は、昭和五八年一一月二日にチエース・マンハッタン銀行に到着した。また、償還授権者の写し(乙第一号証)にも本件信用状の写し(甲第二号証の二)にも、本件信用状の番号としては「LC-5436」と記載されている。
(二) 従って、被告は、補償銀行であるチエース・マンハッタン銀行に対し、本件信用状に関して適切な授権をしたものと認められる。
3. 請求原因3(一)(3)の事実につき判断するに、これを認めるに足る証拠はなく、かえって前掲乙第四号証の「一九八四年一月九日に当方にある商工中金の口座から六万五〇〇〇米国ドルを引き落し」という記載部分からすると、被告は昭和五八年一二月ころにもチエース・マンハッタン銀行の預金口座に少なくとも六万五〇〇〇米国ドル以上の資金を有していたものと推認することができ、この認定に反する証拠はない。
4. 結局、原告の不完全履行の主張はこれを採用することはできない。
四、履行遅滞責任(請求原因3(二)及び抗弁)の有無について
1. 請求原因3(二)、抗弁2(二)の各事実は当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一六号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件信用状に基づく本件為替手形がなかなか決済されなかったので、原告は被告に依頼して昭和五八年一二月七日にリベラに直接金一万九五〇〇米国ドルを送金したことが認められ、これに反する証拠はない。そして、この送金分が現実にリベラの手に渡ったのが同年一二月一二日ということになる。
2. 本件信用状に基づく本件為替手形が遅滞なく決済されなかった原因について(抗弁1の事実について)
(一) 前掲乙第四号証、第八号証及び証人石田澄男の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。
原告は、昭和五八年一一月二八日ころ、本件信用状に基づく本件為替手形につき、チエース・マンハッタン銀行が支払を拒絶したとリベラから連絡を受け、直ちに、被告に対し、調査するように申し出た。
そこで、被告は、同年一二月九日、チエース・マンハッタン銀行に照会したところ、チエース・マンハッタン銀行は、同年一二月二三日、テレックス(乙第八号証)により「L/C5436として参照番号のあるものはすべて別にファイルしてしまっていたことを連絡する。本件に係る不都合を陳謝します。」と回答した。更に、チエース・マンハッタン銀行は、昭和五九年一月二四日、「当方は、商工中金の信用状No L/C5436(一九八三年一〇月二〇日付金額六万五〇〇〇米国ドル)に基づく商工中金の償還授権を郵便で一一月二日に受領したことが判明した。上述の授権は、一九八三年一二月五日午後四時五五分に当方のシステムに入力された。一九八三年一一月二二日、当方はアメリカ銀行パナマ支店より六万五〇〇〇米国ドルの償還請求を郵便で受領したものの、その請求には当方の記録 “LC-5436”に反して、その請求における商工中金の信用状の番号は“5436”と記載されているだけであった。従って、当方は、一九八三年一二月八日に商工中金に対してその権限を得るために電信を送った。」と調査結果を報告してきた。
(二) 右認定事実からすると、チエース・マンハッタン銀行が本件信用状に基づく本件為替手形の呈示に対して遅滞なく支払をしなかったのは、被告から同銀行宛昭和五八年一一月二日に償還授権書が送付されてきたのに、同銀行は、事務処理上の過誤から、同銀行のコンピューター・システムに正確に入力するのが遅れたことがその主たる原因であったと認められる。アメリカ銀行パナマ支店からチエース・マンハッタン銀行宛送付されてきた償還請求書に、本件信用状の番号が正確にはLC-“5436”であるのに、単に“5436”と表示されていたということも一因であったかに見えるが、この点に関しチエース・マンハッタン銀行が被告にテレックスで確認を求めたのが同年一二月八日であるのに対し、被告が原告の依頼により直接リベラに送金したのが同年一二月七日であるから、この点は影響がなかったものと認められる。
3. 統一規則の本件契約への適用の有無について判断する。
(一) 抗弁2(一)について判断するに、前掲甲第一号証の一及び証人竹廣和俊の証言並びに原告代表者本人尋問の結果を総合すれば、本件契約の締結にあたって原告が被告に対して交付した信用状開設依頼書(甲第一号証の一)には、右契約が統一規則に準拠する旨が不動文字の英文で記載されていたこと(THIS CREDIT IS SUBJECT TO THE UNIFORM CUSTOMS AND PRACTICE FOR DOCUMENTARY CREDITS (1974 REVI-SION) INTERNATIONAL CHAMBER OF COMMERCE (PUBLICATION NO (290))、荷為替信用状を発行している現在の我国の都市銀行、地方銀行及び信用金庫のすべてが、右統一規則を採用していること、従って、我国においては統一規則に準拠しない信用状は存在しないこと、更に、右銀行等のすべてが、右銀行等を発行銀行とする荷為替信用状開設契約の締結にあたって、信用状開設依頼書に右統一規則に準拠する旨の文言を記載していること、他方、原告代表者は竹廣から統一規則の存在、内容について特段説明を受けていなかったこと、原告代表者は本件以前にも何回か海外との取引において信用状を利用したことがあったが統一規則の内容は知らなかったこと、以上の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
(二) 右事実によれば、少なくとも我国においては、信用状が統一規則に準拠することは商慣習となっているものと認められ、また、信用状に基づく為替手形の決済は、発行銀行等の支店が全世界に存在しない限り、他行のサービスを利用せざるを得ないものであり、そうであるとすれば、銀行等が信用状取引に消極的にならないようにし、信用状取引の円滑化を図るため、他行のサービスを利用することによる危険を発行銀行等ではなく信用状開設依頼者に負わせることは合理的であり、統一規則第一二条(a)項の内容は公正かつ合理的なものというべきである。従って、本件の信用状開設依頼書に前記の文言が不動文字で記載されている以上、原告代表者がその文言及び統一規則の内容を認識していなかったとしても、本件契約に基づく法律関係は統一規則によって律せられるものというべきである。
4. 右1ないし3に呈示したところによれば、本件信用状に基づく本件為替手形が遅滞なく決済されなかったことは、補償銀行たるチエース・マンハッタン銀行の事務処理上の過誤にその原因があるというべく、信用状の発行銀行たる被告は、統一規則第一二条(a)項により、その履行遅滞責任を免れるものと解される。
五、以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 根本久 裁判官 齊木敏文 裁判官飯島悟は退官につき、署名・捺印することができない。裁判長裁判官 根本久)